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リモート飲み会、リモートワークの次は……リモート政治? 〜デジタル・デモクラシーがやってくる! (2020)〜

2020.08.31 東大書籍レビュー Facebook Twitter Line

最近、「リモート」が流行っています。仕事面での「リモートワーク」はもちろん、「リモート飲み会」「リモート謎解き」などエンターテイメントも時節柄オンラインで行う機会が増えています。このようなオンライン化はCOVID-19によって一気に進みましたが、その背景にあるのは技術の進展と普及です。

今回は、デジタル化が政治、民主主義にどのような影響を与えたのかについて書かかれた書籍である、谷口将紀・宍戸常寿両教授の「デジタル・デモクラシーがやってくる!AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?」を紹介します。

この著作の両教授は共に東大法学部で教鞭をとっており、サークルの先輩・後輩関係だったとのこと。本書は、第四次産業革命と政治の関わりについて6つの章(政治コミュニケーション、政党、熟議民主主義、討論型世論調査、選挙、電子議会)に分け、それぞれの章で専門家と両教授が対話する形で、議論を深めています。第四次産業革命とは、18世紀の産業革命を起点として4つ目の大きな産業転換であり、21世紀に起きるIoT、情報分野における革命を指しています。この変化のもとで生まれる新しい民主主義の特徴やその民主主義の性質をデジタル・デモクラシーとしています。ここでは、本書が持つ視点を明らかにした上で、本書中で挙げられているエピソードを紹介できればと思います。

デジタルデモクラシーへ向けた「課題」はどこにあるのか?

本書が示す特徴的な視点は、技術的課題に着目しつつも、それ以外の視点、つまり、制度設計、技術と従来の価値観との接合の視点がより大きな課題としてあるということです。谷口教授は、技術的課題が目前にある1つ目の課題だとしても、その先にある大きな課題として制度設計の問題があることを説明しています。

実際に、我々が「デジタルデモクラシー」について考えるとき、技術的課題が中心となることが多いです。例えば、民主主義の根幹たる選挙において、デジタル化の文脈で議論されるのは、電子投票の実施です。その実現に向けて、「電子投票において秘密投票は守られるのか」「どのようにして二重投票を防ぐのか」など、技術的な問題が頭に浮かぶのではないかと思います。本書でも、電子投票について書かれている第5章では、そのような技術的な側面に目を向け、エストニアなどの海外の事例、可児市など地方での先進事例、失敗事例、さらには現在の国政における検討状況についてまとめられています。しかし、多くの紙幅を割いて記されているのは、技術をあくまで「手段」として位置付け、どのように適用させていくかという部分です。具体的には、情報との接点、フェイクニュースとの議論に始まり、政党のデータ戦略など、どのように情報が用いられているかの議論が行われています。

新しい技術が生まれると、その発展系として、こんなこともできそう、あんなこともできそうと夢は広がります。しかし、実際に既存の制度や枠組みの中でどう活用されていくかというのは案外欠けている視点なのかもしれません。

討論型世論調査 ー新しい世論のあり方ー

ここからは、技術を「手段」として政治やその研究に用いることについて、討論型世論調査という一つの事例を用いて考えていきます。

そもそも、討論型世論調査とは何かというと、まず最初に何らかの世論調査を行い、その後、何らかの形で討論を行い、特定の議題についての賛否両側からの意見など、様々な情報を比較・検討した上で、改めて調査を行って、結果にどのような変化があるのかを考える調査です。

皆さんは「討論型世論調査」と「テクノロジー」、どのような関係があると思われたでしょうか。技術がこのまま進展すれば、討論型世論調査のあり方も深まるのか、はたまた、討論型世論調査やそれが実現したい政治のあり方から遠ざかるのか。オンライン会議ができるようになれば、討論のコストが物理的にも参加者の精神的にも下がると見ることもできます。一方で、オンラインで喋って、情報をぱぱっと閲覧するだけでは、対面でじっくり話すより意見の変動、発生が薄くなる…。ネット時代にはSNSで自分の意見に適合的な意見を多く見るようになっており、一時の討論での変動性は下がってしまうと見ることも可能かもしれません。

結論から言えば、これに対しては本書の中でも識者の意見は分かれています。谷口教授は、ネットにおいてスポーツを見ながらその経過や時々の感情をSNS、掲示板などで共有したり、党首討論などに、弾幕の形でコメントを飛ばせたりする事なども踏まえ、新しい公共空間がネット社会の中で生まれる可能性について肯定的に捉える一方、対談者である日本大学の柳瀬昇教授は、手間と費用がかからないメリットこそあれ、オンラインで討議した場合の効果や意義については慎重に捉えなくてはならないとしています。現在のところは、オンラインでもオフラインと差のない効果を得ることができるという研究もありますが、まだまだこれからということのようです。

全体を通じて、技術によって政治の見方や、情報の仕入れ方、物事の決まり方が変わることへのワクワク感を感じました。しかし、現状の技術の進展や諸障壁を見ると、実現は少し先にあるのだということもまた感じました。政治というものに対して具体的なイメージを持つのは難しいかもしれません。一方で、本書が新しい形の政治、民主主義に思いを馳せるきっかけになるのではと思います。

谷口将紀・宍戸常寿
デジタル・デモクラシーがやってくる! AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない?
(中央公論新社)
2020/3

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