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大学と街 東京大学本郷キャンパスの場合 〜東京大学が文京区になかったら:「文化のまち」はいかに生まれたか(2018)〜

2020.09.28 東大書籍レビュー Facebook Twitter Line

いきなりですが、皆さんは「文京区」の由来は何だと思いますか? 今では東京23区治安ランキング1位の「住みやすい町」「安全な町」というイメージが強い「文京区」ですが、この名前で呼ばれるようになったのは戦後間もなく。東京大学はもちろん、現在では19の大学のキャンパス、支部が存在するこの「ふみのみやこ」と東京大学の歴史について今回は紹介していきたいと思います。

今回紹介するのは、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻・伊藤毅教授が企画監修で8人の著者によって編集された書籍『東京大学が文京区になかったら:「文化のまち」はいかに生まれたか』です。この書籍は、4つの章ごとにそれぞれのテーマが設定されており、第1章では旧本郷区にあたる地域をテーマに、東京大学とその周りの土地との関わりについて、第2章では旧小石川区にあたる地域をテーマに、江戸幕府末期の東京砲兵工廠の設立以降、その地がどのように展開していったかを解説しています。そして、第3章では文京区にあたる地域にあった都市と農村の接点、そして第4章では文京区における住宅地の形成について説明しています。

今回の書評では、4つの章のうち、とりわけ第1章の、東京大学と文京区の関わりの歴史、そして東京大学がこの地域に与えた影響、ここにあったからこそ東京大学に生じた変化について本書の内容をもとに考えてみたいと思います。

本郷キャンパスは本郷じゃなかったかもしれない?

まずは、なぜ東京大学が文京区にできたのかということを紐解いてみたいと思います。そのきっかけになったのは明治5年。この時、国学、洋学、漢学の対立の中で、新しい大学の所在地を検討する段になり、当時の御雇い外国人フルベッキの「大学にふさわしい場所」として行われた提言の中にあったのが本郷でした。当初の第一候補は本郷ではなく、その他の候補としては、駿河台、上野などがあげられていました。しかし、本郷以外の土地は条件が折り合わず、実現には至らなかったようです。
このような経緯で大学の設立予定地となった本郷。赤門の起源でも知られる通り、加賀藩の屋敷の跡地だったわけですが、火災や地震の影響で甚大な被害を受け荒廃していたため、他の利用予定がなかったことが設立につながる大きな要因となりました。荒廃した土地を整える形で、当時13万坪を超える現在の本郷キャンパスの原型が生まれます。この広さは当時の本郷区の1/5にあたり、広大な土地を持つ教育施設として誕生しました。

かつての「大学と街」 〜発展していく大学周辺〜

教育施設が生まれると問題になるのが、大学と街のつながりについてです。当時は今とは全く移動範囲が異なり、教職員の半分が本郷区にいるという状況でした。そのため、必然的に大学周辺に一大学生街が形成されることになりました。当然生まれるのは居住用の下宿施設、そしてそれだけにとどまらず、彼らの生活に関わる食事処、銭湯、さらに、文具店や眼鏡屋、写真館などと幅広い店舗が路地に展開、さらには、今の東大の正門を出て本郷通りを垂直に突っ切る通りのことを「合格通り」と呼ぶなどの試みもあったそうです。最終的には流行らなかったようですが。

さらに、東京大学が街の広がりに与えた影響は東京大学に関わること・人だけにとどまらなかったようです。その1つが教育施設。現在の東京医科歯科大学はもちろん、現在の筑波大学、お茶の水女子大学なども東京大学の周辺に設置された教育施設でした。そして、先ほど紹介したキャンパスの候補地として名前が上がっていた駿河台にも、私立大学が数多く作られ、教育施設の広がりの一翼を担うこととなりました。さらには、大学などの高等教育の附属施設として、小中学校や基礎自治体の持つ幼稚園、小学校も発展しました。こういった教育施設の充実が、この地帯が「文京区」と呼ばれる要因に繋がったのかも……?

これからの「大学と街」 〜変わっていく大学周りの姿〜

しかし、このような教育施設とその周りにできる町や文化も、移動手段の発達などに伴い大きな転換点を迎えています。特に他の私立大学とその周りに存在する街との関係性に比べ、前述の東大と本郷の地域社会の間はドライなものであり、文京区、本郷の発展が東京大学という文脈から離れたところでも進んでしまったからこそ、古本屋街や下宿も大きく減少してしまったそうです。

さらに、この本に追加して述べると、COVID-19流行以降の大学のオンライン化もこれを大きく加速する要因となるでしょう。実際、私自身も、数ヶ月ぶりに本郷キャンパスの周りを歩いてみたところ、見慣れた飲食店のいくつかがなくなってしまっていることに衝撃を受けました。この急激な変化の中で、改めて、大学のような地域の基幹となる施設とその街とのつながりは問い直され、新しい形への変化を迫られるのかもしれません。

ここまで、「大学と街」というテーマから、東京大学本郷キャンパスとその周辺について記す形で書籍を紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか。
冒頭の「文京区」の由来、実は第1章に書いてあるのですが、案外これ自体は「え?これだけ?」というちょっと拍子抜けな理由になっています。とはいえ、全体としては、案外考えたことのない「東大」とそれが立地する土地の関係性や影響について考えるきっかけになる書籍です。また、今回は紹介しきれませんでしたが、第2章以降では文京区に過ごす人なら誰でも気になる文京区の歴史を様々な視点から明らかにしています。是非、一度手にとってみてはいかがでしょうか。

伊藤毅 企画監修、樺山紘一/伊藤毅/初田香成/髙橋元貴/森朋久/松山恵/赤松加寿江/勝田俊輔 著
東京大学が文京区になかったら :「文化のまち」はいかに生まれたか
(NTT出版)
2018/01

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